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2002-01-05 21:14 バージョン
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エントリーNo.
t0003
タイトル
「ひと一人の命がかかってる」
場所・立地条件等
【某オフィス街の路上にて】
 その道は普段から混み目な通りである。中央線の有る片側一車線の道路だが、近くの幹線道路との絡みで、交通量が元々多いのだ。
状況
 とある平日の夕方、大橋利也(仮名)の運転する空車のタクシーが、利用客を探しながら走っていた。

 大橋利也(仮名)は利用客を探しながら、空車で走っていた。道が混んでいるので、ゆっくりとしか進めない。利用客を探しながら走っているのだから、道が空いていなくても、どうという事はなかった。ふと時計をみると16:30をまわったところだ。「そろそろ渋滞し始める頃だな、その前にお客様がいないかな... 」そう思いながら、少し先の赤信号で順番に停止する車の動きを見ていた。自分の直前の一般車が停止するかしないかの時、脇の細路地から女性が走って来るのが目に入った。「お客様かな? 」反射的に右手はドアの開閉レバーの方へ伸びる。直前の一般車に続いて、大橋利也のタクシーも停止する、その瞬間、予測は適中していた事が分かる。大橋利也のタクシーに辿り着いた女性は、立ち止まるよりも先に開いたドアから、後部座席に滑り込む。
 自分の足が後部座席に入り切らない内に、その女性客は叫ぶ。「○○町まで! 急いでねっ!!
 「はいっ、○○町までですねっ、ドアお閉めしますっ。」早口で返事をしてドアを閉め、実車ボタンを押すと、大橋利也は前方の信号に目をやりながら、その女性客に再度確認する。「お急ぎですね。○○町まではどの様に行きましょうか? 」それに対して、女性客は答える「何でもいいから急いでね。」○○町までは、今いる道を真直ぐ幹線道路に出て正面の区画を、右から回るか左から回るか、悩む所である。左からならば、割合流れがスムーズだが距離が延びる。右からならば、距離は短くできるが割合流れが滞る。正面の区画に入って行って、右や左と曲がりながら抜ければ、幹線道路を右回りするのと大して距離は変わらないのに、それより時間がかかる。少なくともまだ、帰宅ラッシュのピークまでは時間が有る。
 「右から行けば距離は最短ですが... 」と言いかけた途中で、「はぁ? 右? 左なら分かるけど、右からなんて遠回りでしょ!?」と女性客は口を挟む。どちらの方が遠回りかは、この際、どうでもよかった。「では、左からでよろしいですね? 」大橋利也は確認する。その間に前方の信号は青に変わっていて、前の一般車が動き始める。それに追従して、大橋利也もタクシーを前に出し始めている。信号を左に曲がり始める直前、「大丈夫ちょっと!?ホントに急いでるんだからっ!!」と、またあおられる。「はい。できる限り急ぎます。」そう言って、大橋利也は強めにアクセルを踏む。それでもまだ、その女性客は言葉を続ける。「何でもいいから急いでね。人の命がかかってると思っていいわよ。
 大橋利也は「はい!!かしこまりましたっ!!」とやけに歯切れのよい返事をする。血が騒ぎ出すのだ。大橋利也は昔、“走り屋”というのをやっていた。一般車の群れをかいくぐってコンマ1秒を争う走りは、得意を通り越して大好きなのである。しかし、もう1年以上もタクシー乗務員をやっているので分かり切っていた。いくらお客様がそう言ったとしても、なかなか一般人の恐怖感と言うモノは、“走り屋”のそれより遥かに大きく敏感なのは、百も承知である。この手のお客様の時は、ある程度はトバすものの、お客様の感じ方の様子を見る程度でまず走る。その時は、大橋利也にとってみれば、全く本気を出しておらず、珈琲でも飲みながら煙草を吸う余裕が十分にある。しかしそれでも、一般人は恐怖を感じ、「そんなにトバさなくても...」となってしまうのである。つまり、いくらお客様がお急ぎでも、大橋利也が本気で走れば、一発でクレームになるであろう事はわかりきっていた。
 が、「人の命がかかってると思っていいわよ。」とまで言われれば、期待してしまうのであろう。大橋利也の血は騒ぎ出しているのだ。
 とりあえず、いつもの様に様子見程度で走っていた。左回りの道は、通行量が増え始めてはいるものの、まだ十分流れている。1分も経たない内に、かなり進んでいたのだが、「本当に人の命がかかってるんだから、これ遅れたら、本っ当に首くくりモンなんだからね。頑張ってねっ!?」と女性客は言う。一応、努力を認めてもらっている様だ、そう思うのと同時に大橋利也は、まだイケるのか、と思い、「はいっ!!」と返事をして、満面の笑みを浮かべる。そうなのだ。大橋利也はまだつまらなかったのだ。
 先ほどまでの様子見のトバしかたよりも、ペースをあげる。もちろん、お客様の様子を伺いながら。タイヤが声を上げない様にコントロールしながらも、周りの一般車をグイグイ抜いていく。そして更にペースを上げた頃、大橋利也が少しだけ、楽しくなってきた頃に、「それぐらいで十分よ。大丈夫。もう十分間に合うわ。」と水を差された。まぁそんなものかな、と思いながら、そのままのペースで走るとクレームになるといけないので、渋々、僅かにペースを落とす。
 程なく、目的地に着くと、「本当に有難う!!ごめんなさいね、脅したりして。おかげで十分間に合ったわ。お釣はいいから。」と言って、そそくさと近くのビルの中へ入っていった。








 この大橋利也(仮名)さんという乗務員さんは、大渋滞でニッチもサッチもいかない様な状態でもなければ、ただの一度も“お急ぎ”のお客様から、クレームつけられた事はないそうである。例え時間に間に合わなくても、というのが凄い。その走りを体験“させられた”お客様は、それだけで納得してしまうのだろう。「これで精一杯です。」等と弁明をした事もないそうである。
 「そんな運転をしてるといつか事故りますよ。」という話をしたら、「事故るかもしれない、と思わせてくれる程のお客様にまだ巡り会っていない。」との事。恐れ入る。
 本人曰く、タクシー乗務員になってからは、プライベートでもタクシー営業中でも、一般道では本気で走った事は一度もないそうだ。サーキットにタマに遊びに行っているのらしいが、ワザと混んでいる日の混んでいる時間帯に行って、グイグイ抜いていくのが楽しいらしい。「殆ど、病気ですね。」と笑いながら言ったら、「いや... 完全に病気だろ? それも、不治の病。」と返された。
 免許取得してから10年近く、プライベートでもタクシー営業中でも、同乗者がいる時の事故はただの一度もないそうだ。ガードレールにかすった事すらないそうである。昔、一般道で本気で走っていた頃を含めて。車の運転をしていて、同乗者以外も含めて、誰かに怪我をさせた事は、今まで一度もないそうである。
 この大橋利也(仮名)さんという乗務員さん、タメになるかどうかは別として、他にもいくつか面白いネタがあるので、ここのレギュラーな登場人物になってもらう事にしました。その為に、仮名付けさせてもらいました。本名はまずいでしょう?
 この大橋利也(仮名)さんという乗務員さんの今回のお話から学べる事は、「いくらお客様がお急ぎだとしても、あまりトバし過ぎれば、乗務員は何とも思っていない程度の走り方でも、クレームになる事が有るから、お客様がどう感じているか気を配りながら、急ぐ」という事ぐらいでしょうか?



 
お客様
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会社・組合
他の乗務員
当事乗務員
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